第2章 ・ 読む
季節をつかまえる — 雪の連作
画家は生涯にわたって、雪ばかりを100枚近くも描きました。

同じ場所に、何度も足を運んで絵筆をとる——そんな画家がいたら、不思議に思うかもしれません。けれど戸外で絵を描く人たちにとって、景色は一度きりのものではありませんでした。朝の光と夕方の光、晴れた日と曇った日とでは、同じ野原も同じ家並みも、まるで別の顔を見せます。その移ろいそのものを追いかけようとして生まれたのが「連作」という試みです。ひとつの主題を、季節や天候を変えながら何枚も描き重ね、光と大気の変化そのものを絵の中にとじこめようとしたのです。
カミーユ・ピサロは、1830年にデンマーク領ヴァージン諸島に生まれ、1903年に世を去った画家です。印象派の画家として知られ、若い画家たちの精神的な支えとなり、セザンヌやゴーギャンの師としても名を残しています。そんな彼が生涯を通じて特別な情熱を注いだ主題のひとつが、雪でした。なんと100点近い「雪」の絵を描き残しているのです。
ここで見る『ポントワーズのうさぎ小屋、雪』も、その探求の一枚です。1879年、フランスはとりわけ厳しい冬にみまわれました。ピサロはこの冬をきっかけに、雪景色を一連の作品でくり返し描いています。舞台となったのは、パリから西へ30マイルほど離れた、セーヌ川沿いの町ポントワーズにある彼の自宅でした。

雪に覆われた屋根の家
細部
手前に広がる雪の斜面をご覧ください。

手前の雪に覆われた斜面
細部
力強い筆づかいが幾重にも塗り重ねられ、まるで泡のような厚みのある層となって、地面を覆いつくしています。雪の中に立つ人物にも目を留めてみましょう。

雪の中に立つ人物
細部
黄みをおびた白一色の世界のなかで、彼の服の色だけが、小さなアクセントのようにぽつんと置かれています。左側にそびえる背の高い木々も

左側の背の高い木々
細部
、白く覆われながらもかろうじてその輪郭を保ち、静けさのなかに一本一本の存在を主張しています。
この雪という主題は、ピサロだけのものではありませんでした。仲間のクロード・モネやアルフレッド・シスレーもまた、雪を描くことに情熱を注いでいます。同じ冬景色を何度も選び取ったのは、単なる好みではなく、変わらないはずの白い世界にも、光と大気が刻一刻と違う表情を与えることを、画家たちがよく知っていたからなのでしょう。
出題出題されやすい語重要語地名・年号・概念・技法
出典(4)
- 1.カミーユ・ピサロは生涯を通じて雪というテーマを追求し続け、100点近い「雪」の絵画を制作した。Art Institute of Chicago
- 2.1879年にフランスを襲った極めて厳しい冬が、ピサロが本作を含む一連の作品で雪の情景を探求する背景となった。Art Institute of Chicago
- 3.ピサロは、クロード・モネやアルフレッド・シスレーといった印象派の画家たちと共に、雪のテーマを追求した。Art Institute of Chicago
- 4.画家の力強い筆致により、地面や家屋、植物が泡のような質感の雪の層で覆われている様子が表現されている。Art Institute of Chicago