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北斎が七十代に手がけた『冨嶽三十六景』。江戸後期、海外との往来が厳しく制限されていた時代に、日本人は風景そのものを芸術の主題として磨き上げていきました。1その頂点に立つ一枚が、この「凱風快晴」です。2 まず目に飛び込むのは、この深く澄んだ青空です。3多色摺り木版画の技法と、水性インクならではの透明感が、油絵では出せない清澄な空気を生み出しています。4 山頂に残る白い雪をご覧ください。5この雪が残っているという事実こそ、山肌の赤が朝焼けだけではなく、夏の強い日光に輝く山肌そのものの色である可能性を示しています。6題名の「凱風」とは古典に由来する初夏の南風。雪と赤土が共存するこの情景は、まさに夏の入り口の富士なのです。 その赤く染まった山肌は、北斎が長年の構想を経て辿り着いた表現です。7写実を超えた色彩で、富士の存在感そのものを画面に定着させようとした意志が感じられます。 そして裾野に広がる深い緑の樹海が、山の巨大さを静かに支えています。8赤・白・青・緑という大胆な色の対比こそ、この作品が時代を超えて人を引きつける理由です。9
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