事実に基づく記述には出典を明記しています。番号は下の一覧に対応します。
1943年、マティスは73歳でした。若き日、法律家を目指しながら療養中に絵具と出会い、芸術の道を選んだ男が1、長い画業の末にたどり着いた境地がこの一枚に宿っています。 画面中央でリュートを奏でる女性をご覧ください。白いドレスが光を集め、室内に静謐な時間が流れています。 リュートという古楽器は、西洋絵画において「音楽の喜び」や「調和」の象徴として長く描かれてきました。マティスがこの楽器を選んだことは、絵画そのものを音楽のように構成しようとする意志の表れとも読めます。 テーブルには色彩が置かれ、空間全体が装飾的なリズムで満たされています。1917年にニースへ移ったマティスは、より穏やかで官能的な室内世界を追求するようになりました。2 演奏者の顔は、感情を細かく描写するのではなく、簡潔な線で示されています。形を単純化することで色彩と構図に力を集める、これがマティスの本質的な革新でした。3 音楽と絵画が静かに溶け合う、晩年の成熟がここにあります。