

Death of Dido
Guercinoこの作品について
描かれているもの
画面右端でこちらを見つめる男は、物語の登場人物ではありません。観客と舞台を繋ぐ「フェスタイオーロ」という当時の演劇的手法を絵画に取り入れたものです。[1] 描かれているのは、妹アンナが「説得失敗」の報告に戻った瞬間です。絶望したディドは既に剣を突き立てており、アンナの驚きと悲しみが劇的に表現されています。[1] 画面右上には、黒い翼を持つキューピッドが描かれています。愛の神でありながら、死を象徴するような不吉な黒い翼は、この恋が招いた悲劇的な結末を強調しています。[1] この絵は「スペインを信じると破滅する」という教皇からの政治的警告だったという説があります。裏切るエネアスをスペイン王、悲劇のディドを王妃に見立てています。[1] この作品はグイド・レーニの『ヘレネの略奪』と対になるよう構想されました。トロイア戦争の始まりと、その後の悲劇的な結末をセットで見せる壮大な物語の一部だったのです。[1] 画面右端で海を指差すエネアスの帽子には、ヘラクレスの彫り物があります。これはスペイン王家が自らの祖先と称した英雄であり、特定の政治的人物を示唆しています。[1]
背景と物語
依頼当時、マリー・ド・メディシスはグエルチーノの名を知りませんでした。この作品は、彼が宮廷画家としての地位を築けるかどうかを賭けた、一世一代の「オーディション」だったのです。[1] 依頼主のマリー・ド・メディシスが権力争いに敗れ亡命したため、この傑作は行き場を失いました。結局、仲介役の枢機卿が自ら買い取る羽目になったのです。[1] 当初は全く別の構図でしたが、ライバルのレーニの作品と並べて飾るために、グエルチーノは急遽スタイルをレーニ風の水平な多人数構成へと変更しました。[1] 現在もローマのスパダ絵画館にあるのは、枢機卿が転売に失敗したからです。王妃への献上品だったはずの絵が、400年近く同じ場所に留まる皮肉な結果となりました。[1] 本来は巨匠グイド・レーニが描くはずでしたが、彼がフランス行きを拒んだため、代役として当時まだ無名に近かったグエルチーノに白羽の矢が立ちました。[1] 1632年の展示会では、ダイヤモンドの盗難資金で購入された「盗品」の絵画群と一緒に並べられました。当時のローマを揺るがした大スキャンダルの一部だったのです。[1]