第1章 ・ 見どころ
木版画の復権 — 白と黒だけの世界(見どころ)
見どころ
- 白と黒のみのコントラストで暗示される、模様と奥行きと形
- 余計なものをそぎ落とした、純粋で簡略化された形態
- パリの日常生活をとらえた、独創的な木版画の構図
- 下絵から彫り、刷りまで自らの手で仕上げた版の面
書き起こし
19世紀末のパリ。スイス出身の画家フェリックス・ヴァロットンは、当時すでに廃れていた木版画という技法を、純粋な芸術表現として現代に甦らせた人物です。 この作品が示すのは、白と黒だけで世界を切り取る、その鮮烈な方法論です。 床に横たわる女性の姿。ヴァロットンは白い肌の輪郭を黒い背景から鋭く切り出し、余分な陰影を一切そぎ落としています。白と黒のコントラストだけで形と奥行きを暗示するこの手法は、日本の浮世絵の影響を受けながら、伝統的な立体表現を意図的に排除したものです。 傍らで伸びをする白い猫。単純化された形の塊として描かれ、女性と呼応するように「怠惰」の空気を共有しています。木版画が生み出す純粋で簡略化された形態が、ここで最も生き生きと機能しています。 猫へと伸びる右手。力の抜けた、ただそこにあるような手の形が、この版画の主題「怠惰」をひそかに体現しています。 ヴァロットンはこの版を自ら設計し、自ら彫りました。その行為そのものが、木版画を職人の複製技術から芸術家の表現へと変えた宣言でもあったのです。
出典(5)
- 1.木版画はヨーロッパにおける版画制作の技術の中で、最も古い歴史を持つ技法であるとされている。Art Institute of Chicago
- 2.芸術的な実践としての木版画は、19世紀半ばまでには人々の関心から外れ、廃れてしまっていた。Art Institute of Chicago
- 3.ヴァロットンは、一度は芸術的実践として廃れた木版画の手法を現代に復活させた人物である。Art Institute of Chicago
- 4.彼は、純粋で簡略化された形態を生み出すことができるという木版画特有の潜在能力を歓迎した。Art Institute of Chicago
- 5.白と黒のみのコントラストを用いることで、模様や奥行き、そして形状を暗示させる手法をとった。Art Institute of Chicago