第3章 ・ 読む
光の幻視 — 祭壇を飾る宗教画
祭壇の絵は、祈りへといざなう光の入り口でした。

祭壇画、と聞くと、なんだか堅苦しい響きに聞こえるかもしれません。でも中身はとてもシンプルです。教会の祭壇、つまり儀式がおこなわれる台のうしろに掲げるために描かれた、大きな絵のこと。ティエポロは宮殿の天井を彩る仕事のかたわら、こうした教会のための絵もたくさん手がけていました。
ここで見る一枚の主題は、聖母マリアと幼子イエス、そして人びとのために祈りをとりなす聖人たち。キリスト教美術が何百年もくり返し描いてきた、いわば定番の場面です。けれどティエポロは、これをただの「説明のための絵」にはしませんでした。
注目したいのは、聖母子の描かれ方です。マリアとイエスは、まるで奇跡の瞬間にふわりと空中へ現れたかのように、光に満ちた姿で描かれています。

聖母マリアの顔
細部
顔の周りには柔らかな明るさがただよい、これが現実の一場面ではなく、天から差し込んだ幻のような光景であることを伝えているのです。人物たちを包むのは、天国のしるしとされる黄金の雲。地上の出来事ではなく、天が開いてこちらへ現れたのだと、絵そのものが語りかけてきます。
画面では、幼子イエスが聖ドミニクスという聖人にロザリオという数珠を授ける様子が描かれています。

幼子イエス
細部
小さな手の仕草ひとつにも、光を受けて浮かび上がるような特別さが込められているのがわかるでしょう。聖ドミニクスは、この数珠を使った祈りを大切にする修道会を創った人物で、その表情もまた、光の中で静かに祈りを受け取るような穏やかさをたたえています。

聖ドミニクスの顔
細部
こうした光の演出は、ただの美しさのためではありません。祭壇の前に立つ信者は、この絵を見上げながら実際に祈りの言葉をくり返していました。絵の中の奇跡の光が、そのまま祈る人の心に差し込んでくる。ティエポロの祭壇画は、見る者を物語の外から眺めさせるのではなく、光の幻視のただなかへ招き入れる装置だったのです。祭壇画とは、信仰の物語を「説明する絵」ではなく、光によって「体験させる絵」だった。そのことを、この一枚は静かに教えてくれます。
出題出題されやすい語重要語地名・年号・概念・技法
出典(4)
- 1.伝統的な聖母子の主題を、祭壇の上に光に満ちた幻視として奇跡的に現れたかのように表現している。Art Institute of Chicago
- 2.画面の中の人物たちは、天国の象徴である黄金の雲に包まれた状態で描き出されている。Art Institute of Chicago
- 3.幼子イエスが聖ドミニクスに対してロザリオを授けている様子が、作品の中で描写されている。Art Institute of Chicago
- 4.祭壇布の装飾には、マリアとイエスの生涯の主要な場面である「ロザリオの神秘」が刺繍されている。Art Institute of Chicago