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美術館展覧会
第2章読む

物語を演じさせる — 文学と神話の舞台

一枚の絵が、そのまま物語の名場面になります。

絵をひとつの舞台だと考えてみてください。
Rinaldo and the Magus of Ascalon(c. 1742–45)
Rinaldo and the Magus of Ascalon(c. 1742–45)
ティエポロが得意としたのは、神話や歴史、そして人びとが愛した文学から名場面を選び、まるで役者に演じさせるように画面の中で動かすことでした。声も音楽もない絵のなかで、物語がいまこの瞬間に起きているように見せる——それが「劇性」ということばの意味です。 ティエポロがとりわけ好んだのが、十六世紀イタリアの詩人タッソが書いた叙事詩『解放されたエルサレム』でした。舞台は十一世紀末、キリスト教の騎士たちが聖地エルサレムをめざした最初の十字軍の時代。キリスト教徒とサラセン人が戦うこの壮大な物語から、ティエポロは繰り返し場面を選んで描いています。 ここにある『リナルドとアスカロンの魔術師』も、その一枚です。舟でパレスチナの海岸に降ろされたばかりの騎士リナルド
英雄リナルド
細部
英雄リナルド
に、魔術師アスカロン
アスカロンの魔法使い
細部
アスカロンの魔法使い
が語りかけています。魔術師は騎士の持つ盾
魔法の盾
細部
魔法の盾
に先祖たちの英雄的な行いを映し出し、その血筋に恥じない生き方をするよう促しているのです。ことばは描けなくても、盾に注がれる視線とその先に何かを見出したような表情の変化から、物語の緊張がしっかり伝わってきます。 じつはこの絵は、ヴェネツィアの有力な貴族コロナロ家の宮殿の一室を飾った連作の一つでした。以前の三作では迷いや誘惑に揺れていたリナルドですが、この場面では自分の使命に向き合う姿として描かれています。戦いへ戻ろうとする若き騎士の決意は、依頼主一族にとって、市民としての務めを立派に果たす手本でもあったのです。神話の一場面が、そのまま現実の家の教えへとつながっていく——ティエポロの絵にひそむ、もうひとつの力です。
出題出題されやすい語重要語地名・年号・概念・技法
出典5
  1. 1.16世紀イタリアの詩人タッソの叙事詩『解放されたエルサレム』における、魔女と騎士の逸話を題材としている。Wikipedia
  2. 2.物語の舞台は11世紀末の最初の十字軍の時代に設定されており、キリスト教徒とサラセン人の戦いが描かれる。Wikipedia
  3. 3.アスカロンの魔術師がリナルドの盾に先祖の英雄的行為を映し出し、彼に先祖に倣うよう促す場面を描いている。Wikipedia
  4. 4.リナルドが戦闘に戻る選択をすることは、依頼主のコロナロ家にとって市民的義務を果たすための手本とされた。Wikipedia
  5. 5.ヴェネツィアの有力な貴族であるコロナロ家の宮殿内にある、装飾された部屋に掛けられていた連作の一つである。Wikipedia