第1章 ・ 読む
光と影 — 明暗が生むドラマ
光の中の人だけが、こちらへ生きて動き出します。

一枚の絵の中に、昼と夜が同時に息づいている。そんな不思議な魅力を持つのが、レンブラントの代表作です。彼の絵をひとまとめにする、いちばん根っこの秘密――それが光と影、専門的には「キアロスクーロ(明暗法)」と呼ばれる技法です。強い光が当たった部分だけをくっきり明るく浮かび上がらせ、それ以外を深い闇に沈める。ただ物の形を見せるためではなく、画面に「ドラマ」を生み出すための光と影なのです。
レンブラントは1606年、オランダのライデンに生まれました。


20歳前後の頃、アムステルダムの歴史画家ピーテル・ラストマンのもとで半年ほど学びます。この短い修行のなかで身につけた明暗の扱い方が、生涯を貫く彼の武器になりました。光と影を自在に操る画家へと成長していく、その出発点がここにあったのです。
その力がもっともよく分かるのが、オランダ黄金時代の絶頂期、1642年に完成した大画面の集団肖像画です。市民隊の隊長と副隊長、隊員あわせて十八名から依頼されたこの絵は、火縄銃手組合の集会所を飾るために発注された七枚のうちの一点でした。当時、集団肖像画といえば全員が不動の姿勢でずらりと並ぶのが普通です。ところがレンブラントは、隊長と副隊長だけを強い光の中に浮かび上がらせ、まわりの隊員たちを影の濃淡へと沈めていきました。光の当たった二人だけがこちらへ歩み出してくるように見え、まるで舞台の一場面を切り取ったかのようです。静止した記録写真のような集団肖像画に、劇的な時間の流れを与えてしまったのです。
ちなみにこの絵は、表面のニスが黒ずんで夜の情景と誤解され、通称で呼ばれるようになりました。実際に描かれているのは昼の光景です。皮肉なことに、絵の外側でも光と影の見え方が人の解釈を変えてしまう――そんなエピソードさえ生まれるほど、この作品は光と影と共に語られる運命にあるのでしょう。次は音声で、その光と影が実際にどこへ落ち、何を照らし出しているのか、じっくり目で追ってみてください。
出題出題されやすい語重要語地名・年号・概念・技法