第4章 ・ 読む
動く街を見おろす — 近代都市パリ
田園を愛した目は、ざわめく大都市にも向きます。
ピサロといえば、まず思い浮かぶのは畑を耕す農夫や市場のにぎわいかもしれません。けれど、この画家の目はもうひとつの「近代」にも向けられていました。それが、めまぐるしく動く大都市パリです。\n\n

\n\nじつは「近代都市」という主題は、印象派の仲間たちが1890年代までにはほとんど手放してしまったものでした。ところがピサロは晩年になって、あえてこの主題に戻ってきます。しかも描き方も一度変えてから、また元に戻すという回り道をしています。細かな色の点を規則正しく並べる新印象派の技法を試したのち、若いころのように自由でいろんな方向へ筆を運ぶ描き方へと立ち返ったのです。\n\n晩年のピサロは目の病気が進み、外に立って描くことが難しくなっていました。そこで彼が選んだのが、大通りに面したホテルの高い部屋に泊まり、窓から広場を見おろして描くという方法です。この作品も、1893年の初め、数週間滞在したパリのオテル・ガルニエの窓からの眺めでした。\n\n見おろす目線だからこそ、道を行き交う人々や車列が、まるで模様のように連なって見えます。

ル・アーヴル広場の路面
細部
行き交う馬車や人々の姿も、鮮やかに描き出されています。

緑色の馬車
細部

黄色の馬車
細部
交通の音、せわしない足音——都市のざわめきそのものが、画面いっぱいに詰め込まれているようです。\n\n画面の左端に立つ大きな建物は、パリの主要な鉄道駅のひとつ、サン・ラザール駅です。

パリの街並みの建物
細部
多くの人々や交通が交差するこの駅は、当時のパリでもっとも「近代」を感じさせる場所のひとつでした。ひとつの窓から、変わりゆく都市をじっと見つめ続けたピサロのまなざしが、ここにも息づいています。
出題出題されやすい語重要語地名・年号・概念・技法
出典(4)
- 1.ピサロは、1890年代までに他の画家たちがほとんど放棄していた「近代都市」という印象派の主題を再び取り上げた。Art Institute of Chicago
- 2.カミーユ・ピサロは、新印象派のスタイルを試みた後、初期の印象派作品で用いていた自由で多方向な筆致へと回帰した。Art Institute of Chicago
- 3.本作に描かれた光景は、ピサロが滞在していたパリのオテル・ガルニエの窓から見えた景色に基づいている。Art Institute of Chicago
- 4.キャンバスの左端に描かれている建物は、パリの主要な鉄道駅の一つであるサン・ラザール駅である。Art Institute of Chicago