1 works
夜想曲って、音が消えたあとに残る気配みたいですよね。Whistlerのこの一枚は、形よりも「夜の空気」を先に感じさせて、見る人の記憶をそっと呼び起こします。
まず、画面全体が青灰色の靄に包まれていて、音が遠のく感じがしませんか。目を凝らすと、水平線のあたりに建物の影が並び、細い煙突が数本だけ突き出ています。手前の水面は鏡というより、ゆっくり呼吸する布みたい。中央近くに小さな舟が浮かんでいて、人影は点みたいなのに、なぜか体温を想像してしまうんです。右下のあたり、白い粒が散って見えるのも気になりません? 星なのか、街の灯りの反射なのか、決めきれない。 実はこれ、1878年の夜景の「印象」をもとにしていて、1887年に版として世に出た作品なんです。油彩の一筆一筆より、トーンの層で夜を作る発想が、音楽の“和音”みたいに聞こえる理由かも。Whistlerは絵の題名に音楽用語を使うことで、物語より気分で見ていい、と背中を押してくれます。 この靄の中、あなたならどの音を足しますか。汽笛、櫂(かい)の水音、それとも沈黙そのもの?