

The Wrestlers
William Ettyこの作品について
描かれているもの
黒人と白人のレスラーが互角に戦う姿は、当時としては極めて異例でした。黒人は身体的に劣るという当時の偏見を覆し、エティは二人の男を対等な力を持つ存在として力強く描き出しています。[1] 白人レスラーが身につけている腰布は、実はエティの死後に描き加えられた可能性があります。あまりに生々しい全裸の格闘が、当時の道徳観では刺激が強すぎると判断されたのかもしれません。[1]
技法と様式
エティは肌の質感の描き分けに執着した画家でした。黒い肌と白い肌が密着し、光を反射して対比をなす様子は、社会的なメッセージ以上に、純粋に視覚的な美しさを追求した結果と言えるでしょう。[1] この躍動感あふれる大作は、わずか3晩の授業で描き上げられたと考えられています。1晩目に輪郭をとり、2晩目に彩色、3晩目に仕上げの釉薬を施すという、エティの驚異的な速筆の賜物です。[1]
背景と物語
1849年の回顧展で展示された後、この作品は約100年もの間、個人のコレクションに埋もれて公の場から姿を消していました。1947年に再び発見されるまで、美術史から忘れ去られていたのです。[1] 1947年、この傑作はわずか30ギニーという破格の安値で落札されました。人種が入り乱れて組み合う主題が当時の画廊に敬遠されたためですが、結果としてヨーク美術館の至宝となりました。[1] 画家のエティは、巨匠コンスタブルを18対5の票差で破ってアカデミー会員に選ばれた最高位の画家でありながら、生涯、学生に混じって裸体写生のクラスに通い続けるという異例の情熱を持っていました。[1] 筋骨隆々の肉体が放つ汗の輝きは、単なる演出ではありません。当時のロイヤル・アカデミーの教室はガス灯の熱がこもり、換気も悪く、モデルも画家も猛烈な暑さに耐えながら制作していたのです。[1] エティは時折、自費で複数のモデルを雇い、学生たちのために特別なポーズを組ませる「お楽しみ(Treat)」を企画しました。本作も、そんな贅沢な写生会から生まれた一コマだったと推測されます。[1] 産業革命で肉体労働が減り、イギリス男性の弱体化が懸念されていた時代、こうした格闘の絵画は「理想的な強さ」を鼓舞する役割もありました。ボクサーや兵士が、不屈のモデルとして重宝されたのです。[1]