

The Worried Lover
Jean-Antoine Watteauこの作品について
描かれているもの
彼女が手に持つ「切り取られた薔薇」は、単なる装飾ではありません。これは「消費された愛」、つまり過ぎ去った、あるいは成就してしまった愛の象徴として美術史家たちに解釈されています。[1] 描かれているのは、当時の貴族が楽しんだ「牧歌的な仮装」をした女性です。現実の農婦ではなく、演劇的な虚構の世界に身を置くことで、恋の不安という内面的なテーマを際立たせています。[1]
技法と様式
この女性のポーズは、ワトー自身による赤チョークの素描からそのまま引用されています。一つの完璧なポーズを、版画や油彩など複数のメディアで使い回すワトーの制作スタイルが伺えます。[1]
背景と物語
縦24cm、横17.5cmという、現代のタブレット端末ほどの極めて小さな板絵です。この極小の画面の中に、ワトー特有の繊細な感情の揺らぎと風景が凝縮されています。[1] 最初の所有者はワトーの親友アベ・アランジェでした。彼は画家の死後、膨大な素描を相続した人物で、この作品も彼への深い信頼の証として手元に置かれていたと考えられています。[1] 18世紀末、この絵は有名画家ヴィジェ=ルブランの夫である画商ルブランの手に渡りました。革命の足音が聞こえる中、美術市場の荒波を潜り抜けてきた流転の歴史を持っています。[1] 1788年には221リーヴルで落札されましたが、わずか3年後の1791年には132リーヴルまで値下がりしました。フランス革命期の混乱が、美術品の価値にも影を落とした生々しい記録です。[1] ルイ・フィリップ王の息子オーマール公が、イギリス亡命中にこの作品を購入しました。王族が異国の地で、故郷フランスのロココ時代の優雅な面影を求めた証と言えるでしょう。[1] 制作年は1717年から1720年頃とされ、ワトーが37歳で早世する直前の円熟期の作品です。死を前にした画家が描いた、静かな不安と美しさが同居する傑作の一つです。[1] 『夢想家』という別の作品とセットで版画にされ、長年「対(ペンダント)」の作品と考えられてきました。二人の女性の対照的な心理状態を並べて比較して楽しむ、当時の鑑賞文化を反映しています。[1]