

Reredos of the Martyrdom of St Erasmus
Dieric Boutsこの作品について
描かれているもの
拷問に使われる「巻き上げ機」は、実は聖人が船乗りの守護聖人だったことに由来します。船の錨を上げる道具が、14世紀に「内臓を巻き取る道具」として誤解され、この残酷な拷問伝説が創作されました。[1] 腸を巻き取られる凄惨な処刑シーンを描きながら、聖エラスムスの表情は驚くほど穏やかです。まるで外科手術を見守るかのような静寂と、超然とした無関心さが漂う異様な美しさがこの作品の最大の特徴です。[1] 左右のパネルには、時代も場所も異なる聖ヒエロニムスと聖ベルナルドゥスが描かれています。背景の風景を3枚のパネルで繋げることで、異なる時代の聖人たちが処刑の目撃者となる神秘的な空間を生み出しました。[1] 描かれた3人の聖人は、キリスト教における三つの聖性の形を象徴しています。エラスムスは「殉教」、ヒエロニムスは「学識」、そしてベルナルドゥスは「神秘」を体現し、信仰の異なる側面を提示しています。[1]
技法と様式
1840年の修復では、元のオーク材のパネルから別の板へと絵画層を移し替えるという、当時としては非常に大胆な処置が行われました。裏面にはその作業を担当した修復家たちの名前が今も刻まれています。[1]
背景と物語
長らくハンス・メムリンクの作と信じられており、19世紀には偽の署名まで上書きされていました。1858年にバウツ本人の領収書が発見されるまで、真の作者は400年近くも歴史の影に隠れていました。[1] この祭壇画は、15世紀の設置以来、500年以上にわたってベルギーのルーヴェンにある聖ピエトロ教会にほぼ留まり続けています。本来あるべき場所で今も鑑賞できる、非常に稀有な傑作の一つです。[1] 美術史家ホイジンガはこの作品を「腸を巻くもの」と呼び、その生々しさを批判しました。しかし、針に糸を通すような軽やかさで描かれた内臓の描写は、残酷さを超えた「象徴的な静謐さ」を表現しています。[1] 聖エラスムスはその壮絶な最期から、後に「腹痛に悩む人々」の守護聖人とされました。巻き上げられる腸のイメージが、当時の人々の切実な病の苦しみと結びつき、民間信仰の対象となったのです。[1] 中央パネルで処刑を凝視する豪華な衣装の男たちは、当時の実在の人物とされます。オレンジ色の服の男は、注文主のヘラルト・デ・スメット、あるいは画家バウツ自身の自画像であるという説があります。[1]