

Portrait of Innocent X
Diego Velázquezこの作品について
描かれているもの
多くの批評家が「史上最高の肖像画」と称える理由は、その冷徹な写実性にあります。狡猾で知的、そして老いに直面した一人の男の精神性が、一切の虚飾なく描き出されています。[1] ベラスケスは、教皇が左手に持っている紙片の中に自らの署名を書き込みました。日付は判読不能ですが、教皇が画家の存在を「手中に収めている」かのような、象徴的な構図となっています。[1]
技法と様式
スペインの青白い肌の貴族を描き慣れていたベラスケスは、教皇の血色の良い顔を表現するため、筆を「ワイン色の赤」に浸しました。画面全体を支配する多様な「赤」の階調が、教皇の生命力を際立たせています。[1]
背景と物語
20世紀の巨匠フランシス・ベーコンはこの作品に執り憑かれ、45点以上もの変奏曲「叫ぶ教皇」を描きました。しかし、実物の圧倒的な力に恐れをなし、本物を見ることは避けていたといいます。[1] 完成した肖像画を見た教皇は「あまりにも真実すぎる!(È troppo vero!)」と叫んだと言われています。その冷徹なまでの写実性は、モデル本人をも驚愕させ、たじろがせるほどのものでした。[1] この傑作は17世紀から18世紀の間、教皇一族の私的な空間にのみ飾られ、一般の目から隠されていました。そのため、長らく一部の愛好家だけが知る「幻の最高傑作」とされていました。[1] 伝統的な宗教画でありながら、現代のオカルト・ロックバンド「Ghost」の2018年のアルバムジャケットに反転した姿で採用されるなど、今なおポップカルチャーに不気味な影響を与え続けています。[1] 教皇は当初ベラスケスの腕を疑い、テストとしてまず従者の肖像画を描かせました。その出来栄えに驚いた教皇は、ようやく自分を描くことを許したという逸話が残っています。[1] 1923年、ある美術商は「大富豪J.P.モルガンなら、この絵に100万ドルを差し出しただろう」と日記に記しました。それほどまでに、この肖像画の放つ存在感は当時から金銭を超越していました。[1]
制作
教皇が身に纏っているのは薄手のリンネルの法衣です。この服装から、本作は1650年のローマの非常に暑い夏に制作された可能性が高いと推測されています。[1]