

Napoleon I on his Imperial Throne
Jean-Auguste-Dominique Ingresこの作品について
描かれているもの
ナポレオンの正面を向いた威圧的なポーズは、古代世界の七不思議の一つ「オリンピアのゼウス像」をモデルにしています。皇帝を人間を超越した神のような存在として描き出そうとしたのです。[1] ナポレオンが右手に持つのは伝説の王シャルルマーニュの笏、左手には正義の手の杖。さらに頭上にはカエサルを彷彿とさせる黄金の月桂冠を戴き、過去の偉大な統治者たちのイメージを一身に集めています。[1] 皇帝がまとう紫色のマントには、金糸で「蜂」の紋章が刺繍されています。蜂はフランス最古の王朝メロヴィング朝の象徴であり、ナポレオンが自らの支配の正当性を古の歴史に求めたことを示しています。[1] 豪華な絨毯の左端、十二宮の図案の中には、アングルが崇拝したラファエロの「小椅子の聖母」が密かに描き込まれています。皇帝の足元に自らの芸術的ルーツを忍ばせるという、大胆な敬意の表明です。[1] 画面右上の紋章には、イタリア王としてのナポレオンを象徴する教皇領やヴェネツィアの盾が描かれています。しかし、その半分が画面端で切り取られており、構図上の謎や未完成さを感じさせます。[1]
技法と様式
アングルは、当時ルーヴルにあったファン・エイクの「ヘントの祭壇画」を参考にしました。細部への執拗なこだわりや平面的で鮮やかな色彩は、北方ルネサンスの巨匠からインスピレーションを得たものです。[1]
背景と物語
この巨大な肖像画は、現在パリの軍事博物館(アンヴァリッド)に展示されています。かつてはナポレオンの遺体が安置されている礼拝堂や図書室に飾られていた、皇帝の記憶と深く結びついた作品です。[1] 当時の批評家はこの作品を「ゴシック」と呼び、芸術を4世紀も逆行させたと酷評しました。あまりに古風で奇妙なスタイルは、当時の人々にとってスキャンダラスで受け入れがたいものだったのです。[1] 新古典主義の巨匠ダヴィッドは、弟子であるアングルのこの野心作に対し、極めて厳しい評価を下しました。色彩の不調和や彫刻的な立体感の欠如が、当時の正統派の目には耐え難いものに映ったのです。[1] この絵はもともとイタリアの機関のために描かれましたが、あまりに斬新で異様な表現だったため、注文主から受け取りを拒否されたという説があります。その結果、フランスの立法院が買い取ることになりました。[1]