

Ellen Terry as Lady Macbeth
John Singer Sargentこの作品について
描かれているもの
絵の中でテリーは王冠を頭上に掲げていますが、実はこのポーズは実際の舞台演出には存在しません。サージェントが劇的な効果を狙って独自に考案した、絵画ならではの象徴的な構図なのです。[1] 膝まで届くほど長い赤毛の三つ編みは、金糸で束ねられています。この鮮烈な赤髪とドレスの深い緑の対比は、ラファエル前派の画家ロセッティの作品を彷彿とさせると、テリー自身も絶賛しました。[1] テリーが羽織っているヘザー色のベルベットのクロークには、赤い動物の刺繍が施されています。これはグリフィン、あるいはスコットランドの象徴であるライオンを模したものと考えられています。[1]
技法と様式
ドレスには1,000枚もの本物のタマムシの羽が縫い付けられています。この「ジュエル・ビートル」の羽が、舞台の照明を受けて蛇の鱗のような不気味で美しい輝きを放ち、当時の観客を圧倒しました。[1] ドレスの生地は、ボヘミア産の青いティンセル糸と緑のウールを用いたかぎ針編みで作られています。これにより、金属製の鎖帷子のような質感を出しつつ、舞台上での動きやすさも確保されていました。[1] 額縁も作品の一部です。サージェント自身がデザインしたとされるこの重厚な金の額縁には、ケルト様式の文様が彫り込まれており、中世スコットランドという劇の設定を視覚的に補完しています。[1]
背景と物語
2009年から始まったドレスの修復には、1,300時間もの歳月と11万ポンド(約2,000万円以上)の費用が投じられました。現在は彼女の旧居で、当時と変わらぬ輝きを放ちながら展示されています。[1] サージェントは1888年の初演を観劇した直後、テリーの圧倒的な存在感に魅了され、すぐに肖像画の制作を決意しました。舞台の熱狂が冷めやらぬうちに描き始められた、情熱の結晶といえる作品です。[1] この絵を最初に買い取ったのは、劇でマクベスを演じた俳優ヘンリー・アーヴィングでした。彼は自身が経営するライセアム劇場の食堂にこの巨大な肖像画を飾り、客人を驚かせました。[1] 1889年に初めて展示された際、この作品は「その年最大のセンセーション」と呼ばれました。あまりの反響に、その後パリ、シカゴ、リバプールと世界各地を巡回するほどの人気を博しました。[1] 衣装のデザインは、当時の社交界の華だったランドルフ・チャーチル夫人(ウィンストン・チャーチルの母)が着用していた、タマムシの羽をあしらったドレスから着想を得たと言われています。[1] 劇作家オスカー・ワイルドはこの衣装を見て、「マクベス夫人は家計をやりくりする主婦のようだが、買い物だけはビザンツ帝国で済ませているようだ」と皮肉めいた称賛の言葉を残しました。[1]