

Cupid Complaining to Venus
Lucas Cranach the Elderこの作品について
描かれているもの
蜂の巣を盗んで刺されたキューピッドの訴えに対し、ヴィーナスは「お前の放つ愛の矢も、刺されると同じくらい痛いものだ」と笑って諭すという、皮肉めいた物語が主題です。[1] ヴィーナスの足元の石には、口に指輪をくわえた「翼のある蛇」が描かれています。これは選帝侯から授かったクラナッハ独自の紋章で、真作であることを示す署名代わりです。[1] 女神ヴィーナスは全裸ですが、ダチョウの羽根がついた豪華な帽子と2本のネックレスだけを身に纏っており、クラナッハ特有の官能的なエロティシズムを強調しています。[1] ヴィーナスのポーズや傍らのリンゴの木は、旧約聖書の「エヴァ」を意図的に模しており、愛の女神を人類最初の罪人と重ね合わせるという逆説的な意味が込められています。[1]
技法と様式
1962年にニューヨークで、元の木板から「メゾナイト」という建築資材へ絵画層を転写し、裏面にマホガニーを貼るという、現代の技術による大胆な修復が行われました。[1]
背景と物語
この主題はクラナッハの工房で最も成功した構図の一つで、現存するものだけで約20点ものバリエーションが確認されており、当時の需要の高さがうかがえます。[1] 第二次世界大戦末期、アメリカの女性戦時特派員が、倉庫を警備していた兵士から「好きなものを持ち帰っていい」と言われ、この傑作を選び出したという驚きのエピソードが残っています。[1] 愛の快楽と苦痛を寓意的に描いた本作は、当時流行していた性病への警告という、極めて現実的でスキャンダラスな側面を持っていたと考えられています。[1] アドルフ・ヒトラーが自著『わが闘争』の印税で購入した可能性があり、彼の山荘ベルヒテスガーデンにある私的コレクションの中で写真に収められていました。[1] 2006年の調査でナチスによる略奪品の可能性が浮上しました。元の所有者の相続人が名乗り出れば返還の権利がありますが、現在もその正体は謎に包まれたままです。[1]