Ascanius Shooting the Stag of Sylvia
Claude Lorrainこの作品について
描かれているもの
描かれているのは、あまりに無垢な悲劇です。少年が放った矢が、王の娘が可愛がっていた「ペットの鹿」を射抜く瞬間を捉えています。この些細な事件が、後のローマを揺るがす大戦争へと発展していくのです。[1] この絵は『カルタゴのディドとエネアス』と対になる作品として描かれました。2枚を並べると、建物が左右の枠のように機能し、登場人物たちが中央に向かい合うように計算された完璧な左右対称の構図が現れます。[1] 登場人物の身体が異常に引き伸ばされており、特に主人公アスカニウスは「不自然なほど頭でっかち」と評されます。かつては画家の視覚障害を疑う医学的診断までなされましたが、現在は晩年の様式とされます。[1] この「シルヴィアの鹿を撃つアスカニウス」という主題は、美術史上極めて稀です。クロードは5世紀の古い写本を参考にした可能性があり、教養あるパトロンのためにあえて誰も描かないマニアックな場面を選びました。[1]
技法と様式
黄金の光で知られるクロードには珍しく、空は嵐の雲に覆われ、木々は風にしなっています。これは、少年が放つ一本の矢が平和を破り、凄惨な戦争の引き金になるという不穏な予兆を視覚的に表現しています。[1]
背景と物語
巨匠クロード・ロランが82歳で描いた絶筆です。未完成のまま残された可能性があり、彼が自身の完成作を記録していた有名な台帳「リベル・ヴェリタリス」にも、この作品だけは記載されていません。[1] 依頼主であるコロンナ家への「洒落」が隠されています。画面内に描かれた巨大なコリント式の柱(コロンナ)は、パトロンの家名と紋章に引っかけた視覚的なダジャレとして配置されました。[1] ローマ建国前の神話を描いているにもかかわらず、画面には「未来」の姿であるローマの廃墟が描かれています。文明の始まりと終わりを一枚に収めるという、壮大な歴史的矛盾があえて演出されているのです。[1] クロードは自分の描く人物像の拙さを自覚しており、「風景の代金はいただくが、人物は無料でおまけしている」という冗談を好んで語っていました。この作品でも、人物より風景の詩情が主役となっています。[1] 1801年には462ポンドという高値で取引されましたが、1919年の競売ではインフレを考慮すると価値が暴落した588ポンドで落札されました。時代によるクロード作品への評価の激しい浮沈を物語っています。[1]