第5章 ・ 見どころ
空間を手なずける — 遠近法と、忍び寄る死(見どころ)
出典: Wikimedia Commons(Public domain) / Hans Holbein the Younger
見どころ
- 床に浮かぶ歪んだ頭蓋骨
- 二段の棚に並ぶ天と地の道具
- 弦の切れたリュート
- 床に再現された寺院の石模様
書き起こし
1533年、ロンドン。ヘンリー8世がローマと決別し、宗教改革の嵐がヨーロッパを揺るがしていたその年に、ホルバインはこの一枚を描きました。 二人の人物の間に置かれた棚に、まず目を向けてください。 上段には天球儀と日時計、下段には地球儀と楽器。天と地、宇宙の全階層を道具で表し、当時の人間知識の総体をここに凝縮しています。 しかしその棚をよく見ると、不協和音が忍び込んでいます。 リュートの弦が一本切れています。隣にはルターが訳した聖歌集。知識と調和の象徴の中に、カトリックとプロテスタントの対立という亀裂が刻まれているのです。 そして床を見てください。 足元に広がる奇妙な歪んだ形。これは「アナモルフォーズ」と呼ばれる技法で、斜めから見ると人間の頭蓋骨が現れます。栄光と知識に満ちた画面の中で、メメント・モリ——「死を忘れるな」——という言葉が、静かに、しかし確実に響いています。