第2章 ・ 見どころ
よみがえる古代 — 神話がふたたび主役に(見どころ)
出典: Wikimedia Commons(Public domain) / Sandro Botticelli
見どころ
- 貝殻の上に立つ女神
- 左から風を送る西風の神
- 髪や貝殻にほどこされた金
- 絡み合う衣のひだ
書き起こし
ボッティチェリが最も輝いた1480年代、この作品は生まれました。古代以来、これほど大きな女性裸体画は西洋美術に前例がなく、その挑戦は当時の価値観を根底から揺さぶるものでした。ヴィーナスは古典的な女神でありながら、そのシルエットは中世ゴシック美術の影響を色濃く宿し、重力から解き放たれたように静かに浮かんでいます。 足元の大きな貝殻をご覧ください。貝殻の表面には本物の金が施されていますが、驚くべきことにこの金彩は額装の後、仕上げとして追加されたものです。絵画が完成してもなお、作者の手が入り続けていたのです。 画面左では、西風の神ゼピュロスが伴侶とともにヴィーナスへ息吹を送っています。複雑に絡み合う衣の曲線は美術史上「最も美しい恍惚の動き」と称えられ、風の勢いそのものを線で描き出しています。 右岸では、季節の女神ホーラがマントを広げて迎えます。この画面には影が一切存在しません。ボッティチェリは現実の再現よりも、装飾的な美と想像の世界を優先したのです。リッピのもとで学んだ明快な輪郭線が、その夢幻的な世界観を支えています。