十字架を押し上げる9人の男たちの凄まじい筋肉は、全人類の罪を背負ったキリストの「計り知れない重さ」を視覚的に表現しています。[1] かつて祭壇の頂上には、自らの血で子を蘇らせる伝説を持つ「ペリカンの彫像」が置かれ、キリストの自己犠牲を象徴していました。[1] 画面左下の隅には、緊迫した処刑の場面には不釣り合いな「あえぐ犬」が描かれており、神聖な物語の中に生々しい現実感を吹き込んでいます。[1]
この作品は、中央パネルの情景が左右の翼パネルへと溢れ出すように繋がっており、北ヨーロッパにおけるバロック様式の幕開けを告げました。[1]
ルーベンスはイタリアで学んだ古代彫刻『ラオコーン』を参考に、苦痛に歪むキリストの表情や、極限まで引き伸ばされた肉体を描き出しました。[1] 18世紀、教会の改修費用を捻出するために、祭壇の下部にあった3枚の小画や頂上の彫像がバラバラに売却され、一部は今も行方不明です。[1] イタリアから帰国したルーベンスにとって最初の重要な宗教画の依頼であり、この一作でフランドル最高の画家としての地位を確立しました。[1] ヴェネツィア派の巨匠ティントレットの影響を受け、十字架を斜めに持ち上げるダイナミックな構図を採用し、圧倒的な躍動感を生み出しています。[1] 画面中央で十字架を支える甲冑姿の騎士は、作者ルーベンス自身の自画像であると言われており、聖なる場面に自らを投影しています。[1]
元々は高い階段の上に設置されており、見上げる信者たちが、エルサレムのゴルゴタの丘での出来事を追体験できるような仕掛けでした。[1]