地面に転がる壊れた楽器や外れた弦は、地上の快楽の虚しさを象徴しています。聖女が天上の音楽に心を奪われ、世俗的な喜びを捨て去った瞬間をドラマチックに視覚化しています。[1] 中央の聖女は手にした小型オルガンを今にも落としそうです。地上のどんな楽器の音色も、天から降り注ぐ天使たちの歌声の前では色褪せて聞こえるという「忘我の境地」を表現しています。[1] 聖チェチーリアが腰に巻いているシンプルなベルトは、ルネサンス期における「純潔」の象徴です。依頼主の禁欲的なライフスタイルを、聖女の姿を通じて肯定し、称える意図が込められています。[1]
足元に散らばる楽器群は、実はラファエロ本人ではなく、弟子のジョヴァンニ・ダ・ウーディネが描いたもの。巨匠の作風に完璧に溶け込み、当時の静物画の最高傑作として高く評価されています。[1]
1798年にナポレオン軍によってパリへ略奪された際、元の木板からキャンバスへと移し替えられました。この過酷な移動と修復の歴史が、現在の作品の保存状態に大きな影響を与えています。[1] 依頼主のエレーナは、枢機卿から聖チェチーリアの「指の骨」という貴重な聖遺物を贈られていました。この絵画は、その聖遺物を祀るために彼女が建立した礼拝堂の祭壇画として描かれました。[1] 依頼主のエレーナは聖女を熱狂的に崇拝し、その純潔に倣うために夫に結婚生活の不履行(性交渉の拒絶)を説得しました。この絵は、そんな彼女の禁欲的な信仰心を象徴するものです。[1] ラファエロが絶頂期に描いた本作は、あまりの人気に、枢機卿のような権力者でなければ依頼すら困難でした。一介の貴族女性が彼を雇えたのは、枢機卿との強力なコネクションがあったためです。[1] この作品は単なる崇拝対象ではなく「崇拝という行為そのもの」を描いています。登場する聖人たちは全員が「幻視」を経験した人物であり、鑑賞者を神秘的な体験へと誘う構成になっています。[1] 版画家ライモンディによる同作の版画では、天使も楽器を弾いており構図が大きく異なります。これはラファエロが最終的にボツにした「失われた初期構想の下絵」に基づいているという説があります。[1]