

勝利に沸くマドリードで描かれたにもかかわらず、ウェリントンの表情は長年の遠征による疲れを隠せず、英雄の人間的な脆さが浮き彫りになっています。[1] ウェリントンは比較的小柄な人物でしたが、ゴヤは彼を直立させ、頭を高く掲げた構図で描くことで、その小柄さを補い威厳ある姿を演出しました。[1]
キャンバスではなく、マホガニーの木板に油彩で描かれています。この堅牢な素材が、数奇な運命を辿った作品の保存に寄与しました。[1] 顔は緻密に描かれていますが、勲章などは数筆で素早く描かれています。下地の茶色をあえて透かすことで、光と影の強烈なコントラストを生んでいます。[1]
アメリカ人コレクターへの流出を防ぐため、イギリス政府は異例の特別補助金を投入。当時としては巨額の14万ポンドを投じて国内に留めました。[1] 犯人のバントンは「絵画を盗む意図はなかった」と主張。結果、絵画については無罪となり、返却されなかった「額縁」の窃盗罪のみで有罪となる奇妙な判決が下りました。[1] 盗難から4年後、バントンはバーミンガム駅の手荷物預かり所を通じて自発的に返却。その後、自ら警察に出頭するという劇的な結末を迎えました。[1] 1962年の映画『007 ドクター・ノオ』に登場。悪役の隠れ家に飾られており、当時未解決だった現実の盗難事件を逆手に取ったジョークとして描かれました。[1] ナショナル・ギャラリーでの展示開始からわずか19日後、バス運転手のケンプトン・バントンによって白昼堂々盗み出されるという大事件が起きました。[1] ゴヤは1814年にこの作品を描き直しています。ウェリントンがその間に授与された「金羊毛騎士団勲章」などを描き加え、彼の出世に合わせて更新したのです。[1]