

Portrait of a Lady, probably a Member of the Cromwell Family
Hans Holbein the Youngerこの作品について
描かれているもの
絵には金文字で「ETATIS SVÆ 21(21歳)」と刻まれています。この具体的な年齢の記録が、歴史家たちがモデルを特定する際の決定的な証拠となり、謎に包まれた身元の解明につながりました。[1] 胸元のブローチには、旧約聖書の「ソドムを脱出するロトの家族」が彫られています。神に背いて塩の柱になったロトの妻の姿も描かれており、当時の道徳観や信仰心を象徴する驚くほど細密な意匠です。[1] 長年、処刑された王妃キャサリン・ハワードの肖像と信じられてきましたが、現在はジェーン・シーモア王妃の妹エリザベスである説が有力です。王室の権力争いに翻弄された女性の真の姿が浮かび上がります。[1] 宝石に描かれた「天使」は、シーモア家の紋章である「天使の翼」と、当時流通していた金貨「エンジェル」を掛けた視覚的なダジャレになっており、一族の富と王室への忠誠を同時に誇示しています。[1] この絵は数世紀にわたり「メアリー王女」や「オリバー・クロムウェルの母」など、全く別の人物として伝わっていました。名画のモデルが誰であるかは、時代によって何度も書き換えられてきたのです。[1] 腰のベルトには、玉座に座る「父なる神」と天使たちが彫られた大きな宝石が付けられています。これもホルバインによるデザインと考えられ、モデルの並外れた社会的地位と敬虔さを強調しています。[1]
背景と物語
モデルとされるエリザベスは、王妃の妹であり、権力者トマス・クロムウェルの息子の妻でもありました。王室と政界の頂点に位置する、まさに「チューダー朝の重要人物」の肖像です。[1] ホルバインは肖像画を描くだけでなく、モデルが身につけている宝飾品のデザインも手がけました。実際に、この「ロトのペンダント」の準備素描が、現在も大英博物館に保管されています。[1] 袖に刺繍された「百合の紋章」と「金の蔦」は、シーモア家とクロムウェル家の政略結婚による同盟を象徴しています。当時のイングランドで最も勢いがあった二大勢力の結びつきを雄弁に物語っています。[1]
制作
特徴的な袖のカットは、1538年に描かれた別の名作「デンマークのクリスティーナ」と共通しています。流行の移り変わりが激しい宮廷において、この細かな服飾のディテールが制作年を特定する鍵となりました。[1]