A Quakers' meeting
帽子をかぶったままの部屋
2分58秒
解説の書き起こしと出典
事実に基づく記述には出典を明記しています。番号は下の一覧に対応します。
薄暗い部屋に、三十人ほど。 画面でいちばん明るいのは、一人の女性です。白い前掛けをつけて、伏せた樽の上に立ち、腕を上げて話しています。1 まわりを見てください。手のひらを上げている男。うつむいたまま、顔を上げない男。あちこちに、歯を見せた顔があります。 17世紀の後半、クエーカーと呼ばれた人たちの集まりを描いた絵です。2 いまの目には、何がおかしいのか分かりません。おかしなところは、二つあります。 ひとつめ。1763年、ロンドンでの話です。ある日曜の朝、クエーカーの集会で女性の説教を聞いた。そう話した青年に、当時もっとも高名な文人サミュエル・ジョンソンは、こう答えました。「女性が説教をするのは、犬が後ろ足で歩くようなものだ。うまくはない。だが、それができること自体に、人は驚く」3 ふたつめは、見つけにくいところにあります。座っている男たちを見てください。 帽子を、かぶったままです。4 当時、目上の前で帽子を取るのは決まりでした。取らないことは、相手を対等とみなすという表明になります。クエーカーは誰の前でも取らず、そのために牢に入れられ、罰金を科され、殴られています。5 つまりこの部屋は、二つの決まりを同時に破っています。なぜでしょうか。 この集まりには、牧師がいません。誰の中にも同じ光がある。そう考えるからです。黙って座り、心を動かされた人が、そのまま立って話す。役職も、資格も、要りません。上に立つ人がいないので、帽子を取る相手もいない。6 もう一度、彼女の足もとを見てください。 彼女が立っているのは、説教壇ではありません。伏せた樽です。 歴史家のルトガー・ブレグマンは、こうした外からは奇妙に見える小さな集団こそが世界を変えてきたと書き、同じ章に、現代の起業家たちを並べています。 あなたがいま身を置いている部屋は、外からは、どう見えているでしょうか。
出典(6)
- 1.Wikimedia Commons: A Quakers' meeting — 薄暗い室内に集まったクエーカーの集会が描かれ、白い前掛けをつけた女性が伏せた樽の上に立ち、右腕を上げて話している。画面でもっとも明るいのはこの女性である。
- 2.Wikipedia: Egbert van Heemskerck — エフベルト・ファン・ヘームスケルク(1634/35年ハールレム生–1704年ロンドン没)。イングランドで活動したオランダ人の風俗画家。
- 3.James Boswell, The Life of Samuel Johnson (1791) — 1763年7月31日の日曜、ジェイムズ・ボズウェルがその朝クエーカーの集会で女性の説教を聞いたと話したのに対し、サミュエル・ジョンソンは「女性が説教をするのは、犬が後ろ足で歩くようなものだ。うまくはない。だが、それができること自体に人は驚く」と答えた。
- 4.Wikimedia Commons: A Quakers' meeting — 座っている男たちの多くが屋内で幅広の帽子をかぶったままであり、二階の手すりから身を乗り出して眺める人物や、帽子を手に持つ人物が描かれている。女性の足もとには犬がいる。
- 5.Rhode Island Historical Society: Hat Honor — 当時のイングランドでは目上の前で帽子を取ること(hat honour)が礼儀とされたが、クエーカーは神の前では誰もが平等だとしてこれを拒んだ。そのため多くの男たちが投獄され、罰金を科され、殴られ、傷がもとで亡くなった者もいた。
- 6.Britannica: Society of Friends — クエーカーは信条も聖職者も教会的形式も持たず、「内なる光」に従って生きることを旨とした。定型のない集会では沈黙のうちに座り、霊に動かされた者がそのまま立って語る。
