

Crossing of the Red Sea
Bronzinoこの作品について
描かれているもの
逃亡するユダヤ人の群衆の中に、同じ若者が2度登場します。手前でパンを担いで出発の準備をする姿と、背景で対岸にたどり着いた姿が同時に描かれており、時間の経過を一つの画面に凝縮しています。[1] 画面手前に置かれた豪華な銀の壺や金の盆は、ヘブライ人がエジプトを去る際に急いで持ち出した「エジプトの財宝」を象徴しています。宗教画の中に、当時の宮廷の華やかさを反映する小道具が配置されています。[1] 画面右側でモーセを囲む人々の中には、当時の実在人物が紛れ込んでいます。青い服を着てこちらを凝視する男はブロンズィーノの自画像、赤いターバンの男は学者のジャンブッラーリだと考えられています。[1]
技法と様式
登場人物のポーズは、1530年に発掘された古代ギリシャのブロンズ像「イドリーノ」から着想を得ています。ブロンズィーノは発掘現場に居合わせており、その古代の美を装飾的な姿勢へと昇華させました。[1] 迫害され逃げ惑う人々を描いているはずですが、その姿は「古代の神々やルネサンスの貴婦人」のように優雅で冷淡です。美術史家マコームは、この不自然な美しさを「北極のような冷たさ」と評しました。[1]
背景と物語
このフレスコ画は、フィレンツェのヴェッキオ宮殿にあるエレオノーラ・ディ・トレドの私用礼拝堂を飾っています。公妃のプライベートな祈りの空間は、メディチ家の権威を誇示する物語で埋め尽くされていました。[1] 溺れるエジプト軍は、メディチ家の宿敵ストロッツィ家を暗示しています。背景の赤い旗には、実際にストロッツィ家の紋章の一部が描かれており、聖書の物語を政治的な勝利宣言へと変貌させています。[1] モーセがヨシュアに手を置くポーズは、ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂にある「アダムの創造」から直接引用されました。ブロンズィーノは師匠譲りの手法で、偉大な先人の名作を自作の中に組み込んだのです。[1] モーセが後継者ヨシュアを指名する場面は、1541年のメディチ家嫡男フランチェスコの誕生を祝うために描かれました。聖書の継承劇を、公国の安泰を象徴するプロパガンダとして利用したのです。[1] 紅海の横断とエジプト軍の壊滅は、1537年のモンテムルロの戦いでのメディチ家の勝利を象徴しています。宗教的な奇跡の物語を、現世の政権交代を正当化する強力なメッセージとして機能させているのです。[1]