顔を背けている女性は、将来フェルナンド7世と結婚する予定だったナポリの王女です。制作当時はまだ結婚相手が確定していなかったため、あえて顔を隠すという奇妙な手法が取られました。[1] 王妃マリア・ルイサが末子の手を引く姿など、伝統的な王室肖像画には珍しい家族の親密さが描かれています。一方で、召使や従者は一切排除されており、純粋に血縁者のみが並ぶ異質な構成です。[1] 画面左側の青い服の青年は、後の暴君フェルナンド7世です。美術評論家ロバート・ヒューズは彼を「歴史上最も忌まわしいヒキガエル」と評しましたが、ゴヤは彼を驚くほど威厳ある姿に描き上げました。[1] 中央に立つ王妃マリア・ルイサは、実際には病気で歯を失い、肌も黄ばんでいたと記録されています。しかしゴヤは、彼女を一家を統べる力強い家長として、豪華な宝石と衣装で着飾り、理想化して描きました。[1] 批評家ガシエは、この絵の閉塞感を「差し迫った窒息状態」と表現しました。一家は舞台の上に並べられた役者のようで、背後のゴヤは「彼らを見て自分で判断せよ」と観客に突きつけているかのようです。[1]
画家ゴヤ自身が画面左端の暗がりに描かれています。巨匠ベラスケスの『ラス・メニーナス』を意識した構成ですが、王一家を冷徹に観察するような、不気味な笑みを浮かべて背後に控えています。[1] ゴヤは1799年にスペイン画家の最高位である「首席宮廷画家」に任命された直後に本作を手掛けました。これはかつてベラスケスが保持していた地位であり、ゴヤにとって最大の野心の達成を意味していました。[1] フランスの作家ゴーティエは、この豪華な肖像画を「宝くじに当たった近所の肉屋の一家」と揶揄しました。あまりに写実的で、王族の気品に欠ける成金のような風貌が、皮肉や風刺として解釈されることもあります。[1] この肖像画が完成したわずか7年後、ナポレオンの侵攻によってスペイン王家は王位を追われました。栄華を極めた一家の姿は、皮肉にも没落直前の危うい均衡状態を捉えた貴重な記録となりました。[1] ベラスケスの名作では背景の絵画が特定されていますが、本作の背景にある絵は正体不明です。これはゴヤが現実の世界ではなく、彼自身の「心の現実」や想像力を反映させた結果だと考えられています。[1]