

本作の別名は『オイディプス』。スフィンクスの謎を解き王となったギリシャ神話の英雄にナポレオンを重ね、彼の知性と野心、そして過酷な運命を暗示しています。[1] 画面からピラミッドなどの余計な要素を排除し、ナポレオンとスフィンクスの「沈黙の対話」だけに焦点を絞っています。これにより、数千年の歴史と一人の人間の対峙が際立ちます。[1] 巨大な石像の顔は「忘れ去られた君主」や「消え去った民族」の象徴です。若きナポレオンがその謎めいた眼差しを見つめる姿は、自身の野望の行く末を予見しているかのようです。[1] 対になる作品『カイロのボナパルト』では、ナポレオンが征服した街を見下ろしています。スフィンクスを見上げる本作と並べることで、彼の絶頂と謙虚さの対比を描き出しました。[1]
ジェロームはこの画題を彫刻でも制作しました。1897年のサロンで絶賛されたナポレオン騎馬像はフランス政府に買い上げられ、異例の多サイズ展開で複製・販売されるほどの人気を博しました。[1]
1886年のサロン発表時、ニューヨーク・タイムズ紙は「ジェロームの歴史研究における最高傑作の一つ」と絶賛。余計な細部を削ぎ落とした構成が、歴史の重みを強調していると評されました。[1] この作品は1898年、伝説的なアメリカの大富豪ウィリアム・ランドルフ・ハーストによって購入されました。現在はカリフォルニアの豪華なハースト・キャッスルに所蔵されています。[1] 画家のジェロームは1850年代から何度もエジプトを旅した「オリエンタリズム」の大家でした。その実体験に基づいた緻密な風景描写が、歴史的場面に圧倒的なリアリティを与えています。[1] 当時の軍事画といえば戦場での英雄的活躍を描くのが一般的でしたが、ジェロームはあえて瞑想にふける静かなナポレオンを描き、彼の内面的な葛藤や運命を表現しました。[1] 砂漠の熱風や過酷な環境に苦しむ軍隊を背景に、ナポレオンはアレクサンドロス大王やカエサルのような世界征服の夢をスフィンクスの前で反芻していると解釈されています。[1]