描かれた人物は謎に包まれています。ポーランド貴族、ロシアの貴族、あるいはレンブラント自身の自画像という説まであり、100年以上も論争が続いていますが、未だに正体は特定されていません。[1] 男性の耳には巨大な梨型の真珠が揺れ、帽子には宝石を散りばめた金のチェーンが輝いています。左側からの強い光が顔を照らし出し、威風堂々とした表情を際立たせるレンブラント特有の演出が光ります。[1] 男性が右手に持つ金のキャップ付きの杖は、議会の秩序を保つ「元帥杖」である可能性が指摘されています。このことから、モデルは1637年の議会で議長を務めたヤン・スタニスワフ・ヤブウォノフスキだという新説もあります。[1]
科学的調査の結果、この絵の板材は1635年頃に伐採された同じオークの木から作られていることが分かりました。驚くべきことに、13年後に描かれた別の風景画と同じ木材が使用されていたのです。[1] X線分析により、レンブラントが制作途中でモデルの「あごの肉付き」を修正したことが判明しました。この修正は、彼が自分自身の顔を理想化して描こうとした自画像説を裏付ける有力な証拠とされています。[1]
この絵画はかつて、ロシアの女帝エカチェリーナ2世の膨大なコレクションの一部でした。彼女が破産した貴族から買い取ったもので、長らくサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に飾られていました。[1] アメリカの大富豪アンドリュー・メロンは、大恐慌の最中にソ連からこの絵を極秘で購入しました。国民の批判を恐れた彼は、1935年まで購入の事実を隠し続け、作品を公の場から遠ざけていました。[1] 現在のタイトルは後付けのもので、過去には『スラブの王子』『トルコ人の肖像』『ロシア衣装の男』など、様々な名前で呼ばれてきました。衣装の解釈が定まらないことが、タイトルの変遷に繋がっています。[1] かつてはポーランド王ヤン3世ソビエスキを描いたものと信じられていましたが、制作当時の王はわずか8歳でした。また、別の候補者は制作の50年以上前に没しており、歴史的な矛盾が指摘されています。[1] 豪華な毛皮や奇妙な帽子、大げさな口ひげから、この作品は特定の人物像ではなく、誇張された表情や衣装を楽しむ「トローニー」と呼ばれるキャラクター習作である可能性が高いと考えられています。[1]